中学生だった頃、よく正座をさせられた。練習を真面目に取り組まなかったため、反省をさせる意味での正座だ。それが幸いしてか、茶の道に入っても正座は抵抗なく受け入れることが出来た。正座が楽に出来るのも、しばしば座らされたお陰かもしれない。
しかし、現代は住環境も変化し、私たちの日常で正座をする機会も少なくなった。それ故、長時間座ると足が痺れるなど、多少なりとも苦痛が伴うことから茶道を敬遠する人も多い。長年茶道を嗜んでいる人さえも、正座が出来なくなったという理由から辞めてしまう人がいると聞く。
漢字で書くと「正しい座り方」であるにも関わらず、多くの人から敬遠されている正座。実は正座という言葉は明治になってから出来た新しい言葉だ。それ以前には、正座のような座り方を「かしこまる」「つくばう」「端座」「跪坐」とも言った。明治時代に女子教育の一環として茶道が教育の場に取り入れられて以降、正座が流行したと言われる。江戸時代には、茶道と正座は絶対的な関係ではなかった。では、自由に座ってよかったのかと言うとそうでもない。茶道の座り方には重要な意味が隠されているのだ。
その意味に気づかせてくれたのが、ある言葉との出会いであった。私もしばしば訪れる九州山地のほぼ中央部に位置する宮崎県椎葉村。尾根向こうは熊本県、北は神々の故郷、高千穂につながる深山幽谷の地だ。この村でお世話になった民宿のおばあちゃんから「茶の膝」という方言を教えてもらった。
十数年前、この方言に出会って遅まきながら茶道における膝の重要性に気付いた次第だ。「茶の膝」とは家人が主人や客人にお茶や食事を出すために座る場所のことを言う。囲炉裏の周りは上下関係、役目によって座る場所が決まっているのだ。何気ない山村の方言であるが、この「膝」こそが、茶道における正座の意味をあらわしている。
利休の座像をみて、利休は「胡座(あぐら)」をかいていた、つまり茶道では「正座」はしていなかったという説や武家茶道の正式な坐り方が「立て膝」であったという説を耳にする。しかし、これは茶の湯をまったく理解していない人の考えだ。私も「正座」が苦手で茶道を躊躇している人に対して「昔は正座はしてないですよ」と云うこともあるが、それは、茶道=正座というアレルギーを払拭させるために過ぎない。
実は茶道のおいて、「正座」、「胡座」云々のスタイルよりも大切なことは「膝」である。神仏や貴人に対して敬意を表す動作に、地面や床に膝をついて身をかがめる「跪(ひざまず)く」という言葉がある。諺にも、「膝を正す」「膝を交える」「膝をくずす」「膝を屈する」「膝を進める」など、自分と相手との距離感をあわわすのに膝を使うことが多い。
17世紀の茶書『草人木』にも「面々の座へ付て、亭主の出る迄、膝をなおさず、行儀高にして・・・」「貴人の御膝のあたりを通まじき故なり」「客の御膝ろくに御座候へと申」「礼終はらば、亭主膝の時宜を客にいふべし。客も亭主もろくに居る事もあり、始終亭主はかしこまりても居る也」「亭主膝をなおし、客のまへにむかひて」等々ある。座るスタイルよりも膝の有り様が大切なのだ。点前、身体の向きを変える、移動することを考えれば、少なくとも膝の自由がきかないと動きがとれない。
『石州三百ヶ条』には「身のかねといふハ、我身をしかと居り、釜の蓋を取事の程能きをかねとする也」とある。”我身をしかと居り”とあるので、しっかりとお尻を畳につけて座った「割座」であったようだ。18世紀の茶書『茶話抄』にも「まつ居所を畳に付て腰をすえ、両の足の甲を畳に付け膝頭を張様に心を付べし」とある。「割座」とは、いわゆる「お婆ちゃん座り」「女の子座り」と呼ばれる座り方である。
「胡座」のように足を組むという状態は、膝が開いてしまい動きがとれないことを意味するので、客ならともかく、動きを必要とする亭主にとっては不都合な座り方となる。「正座」、爪先を立ててお尻をかかとにのせる「跪踞(跪座)」、そして「割座」が膝を動かすことが可能で、茶道における座り方としてはありえるだろう。
では、「立て膝」はどうかとうと、これは点前の中では許されたようだ。『草人木』に「大きなる釜ならば、なをしたる釜の正面へ身をふりなをり、右の膝を立て、膝かしらの上に右のかいなをのせてにじりやるべし」とある。大きな釜を畳の上を擦って移動させる時、体を釜に向けないと釜の中でお湯がたぶつくし、水が多く入っているので、そのまま移動させると腕に力が入り、しかめっ面になる等々、片膝を立てれば軽々と動かすことが出来るということだ。始終「立て膝」というわけではない。
また、「一畳半又は風炉の時、道安肥満したる故、左の足をくつろけて居る。水翻は膝より外へ出候。され共、右の膝とこぼしとかねて同じ事也。是は肥満したるによって也」とも。肥満体だった千道安の点前での座り方を記した文章である。シンパシーを感じる一文だ。
”足(くるぶしより下)をくつろけて”とあるのだから、足を横に広げたと「横座り」の状態であったと思われる。当然、膝は通常の位置よりも後ろに引かれた状態になるので、こぼしが膝の線よりも外に出てしまう。例外的に「横座り」も膝を動かすことが可能なので許された。太った人に優しい時代だ。
茶道の座り方は”膝”が重要であると書いてきた。膝が動く座り方であれば、決まった座り方はなく自由であった。茶道は正座をしたままじっと動かないという誤解が、日常の正式な座り方と混同して、「胡座」や「立て膝」であったと思われたのではないか。膝を崩してしまっては茶も食事も出すことはできない。亭主は胡座をかいてはいけないのだ。
膝を自由に動かせる座り方こそが茶道の正しい座り方であった。膝の向き、状態、距離などで相手との関係を築くことにあった。正座が出来ない人は、いわゆるおばあちゃん座りでも、横座りでも、跪坐でも構わない。しかし、亭主が膝を崩してしまってはお茶も食事も出すことはできないし、お客様との関係を絶ち切ってしまう。亭主は胡座をかいてはいけないのだ。
生活上でも私たちは膝を突き合わせることが少なくなった。それ故、他人との距離を測れない人も増えてきた。茶道の正座はたんなる型ではない。ましてや苦痛を与えるものでもない。たまに膝と膝を交えて、話をしながら、お茶を一服飲んでみてはいかがだろうか。
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